樺太関係法令および公文書

樺太に関連する法令や公文書などをあつめました。
ここでご紹介している法令は、現在では廃止されていますし、公文書についても、実際に原文を目にする機会は少ないのではないでしょうか。
日本統治下の樺太を知る一助となれば幸いです。

コンピュータ上での表示を考慮し、漢字は現在の表記に、かなはひらがなに直してあります。
なお、こちらのページに、現代語による解説を用意しました。合わせてご覧ください。

目次

法令

樺太市制(昭和12年 法律第1号)

朕帝国議会の協賛を経たる樺太市制を裁可し茲に之を公布せしむ

御名御璽

昭和十二年三月二十二日
内閣総理大臣 林銑十郎
拓務大臣 結城豊太郎

法律第一号

樺太市制

第一条 市は法人とす官の監督を受け法令の範囲内に於て其の公共事務及法律勅令に依り市に属する事務を処理す

第二条 市の廃置分合を為さんとするときは樺太庁長官は関係ある市町村会の意見を徴し主務大臣の認可を受け之を定む

第三条 市に市会及市参事会を置く
市会は市に関する事件及法律勅令に依り其の権限に属する事件を議決す
市参事会は法律勅令に依り其の権限に属する事件を議決す
市会議員は名誉職とす市公民中より之を選挙す
名誉職参事会員は市会に於て其の議員中より之を選挙す
市会議員の選挙に付ては市制第二十二条の二、第二十二条の三、第三十条の三及第三十六条の二の規定、衆議院議員選挙法第十章、第十一章及第百四十条第二項の規定並に衆議院議員選挙に関する罰則の例に依る但し内務大臣及地方長官の職務は樺太庁長官之を行ひ議員候補者一人に付定むべき選挙委員の数、選挙運動の為使用する労務者の数及選挙運動の費用の額に関しては樺太庁長官の定むる所に依る

第四条 市に市長を置く
市長は市会に於いて之を選挙す
市長は市を統括し市を代表す
第五条 市は其の必要なる費用及法律勅令に依り市の負担に属する費用を支弁する義務を負ふ
市は前項の費用に充つる為使用料、手数料、市税及夫役現品を賦課徴収することを得

第六条 市は永久の利益となるべき事業、旧債償還又は天災事変の為必要ある場合に限り市債を起すことを得
市長は予算内の支出を為す為市参事会の議決を経て其の会計年度内の収入を以て償還すべき一時の借入金を為すことを得

第七条 本法に定むるものの外市の境界変更、市公民、市会、市参事会、市吏員、市の財政、市の監督其の他必要なる事項は勅令を以て之を定む

附則

本法施行の期日は勅令を以て之を定む

樺太市制施行期日(昭和12年 勅令第273号)

朕樺太市制施行期日の件を裁可し茲に之を公布せしむ

御名御璽

昭和十二年六月二十三日
内閣総理大臣公爵 近衛文麿
拓務大臣 大谷尊由

勅令第二百七十三号

樺太市制は昭和十二年六月二十五日より之を施行す

昭和4年 拓務省告示第1号

樺太町村制第一条第二項の規定に依り一級町村及二級町村を左の通指定す

昭和四年七月一日
拓務大臣男爵 田中義一

一級町村

豊原町 落合町 大泊町 留多加町
本斗町 真岡町 野田町 泊居町
恵須取町 元泊村 知取町

二級町村

豊北村 栄浜村 白縫村 千歳村
深海村 長浜村 遠淵村 富内村
三郷村 能登呂村 好仁村 内幌村
広地村 蘭泊村 清水村 小能登呂村
名寄村 久春内村 三浜村 鵜城村
帆寄村 敷香村 泊岸村 内路村

昭和12年 樺太庁令第35号

樺太町村制施行規則左の通り改正す

昭和十二年六月二十八日
樺太庁長官 今村武志

(第一章〜第十章 略)

第十一章 市町村の監督

第百六十五条 町村の左に掲ぐる事件は樺太庁支庁長の許可を受くべし
一 条例を廃止すること
二 広告式に関する条令を設け又は改正すること
三 手数料に関する条令を設け又は改正すること
四 基本財産、特例基本財産及積立金穀等の設置に関する条例を設け又は改正すること
五 公会堂、公園、水族館、動物園、植物園、鉱泉、浴場、共同宿泊所、消毒所、産婆、胞衣及産穢物焼却場、幼児哺育場、商品陳列所、勧業館、農業倉庫、種畜、牛馬種付所、斃獣解剖場、獣医、上屋、荷揚場、貯木場、土砂採取場、石材採取場、農具の管理及使用並に使用料に関する条例を設け又は改正すること

第百六十六条 左に掲ぐる事件に監督官庁の許可を受くることを要せず
一 市の広告式に関する条例を設け又は改正すること
二 市の公会堂、公園、水族館、動物園、植物園、鉱泉、浴場、共同宿泊所、消毒所、産婆、胞衣及産穢物焼却場、幼児哺育場、商品陳列所、勧業館、農業倉庫、種畜、牛馬種付所、斃獣解剖場、獣医、上屋、荷揚場、貯木場、土砂採取場、石材採取場、農具の管理及使用並に使用料に関する条例を設け又は改廃すること
三 延滞金に関する条例を設け又は改廃すること
四 特定の目的の為にする積立金穀等を其の目的の為に処分すること
五 三年度を超えざる継続費を定め又は其の年期内に於て之を変更すること
六 継続費を減額すること
七 市債又は町村借入金の借入額を減少し若は利息の定率を低減すること
八 市債又は町村借入金の借入先の変更及債券発行の方法に依る市債を其他の方法に依る市債に変更し若は債券発行の方法に依らざる市債を債券発行の方法に依る市債に変更すること
九 市債又は町村借入金の償還年限を短縮し或は其の償還年限を延長せずして低利借替を為し又は繰上げ償還を為すこと
十 市債又は町村借入金の償還年限を延長せずして不均等償還を元利均等償還に変更し又は年度内の償還期若は償還期数を変更すること

(第十二章 略)

昭和12年 樺太庁令第38号

豊栄支庁長に対する委任事務に関する件左の通定む

昭和十二年七月一日
樺太庁長官 今村武志

豊栄支庁長に対する委任事務に関する件

従前の規定に依り豊原市の区域に於て樺太庁支庁長に属せしめたる国の事務に付きては当分の内豊栄支庁長をして之を行はしむ

附則

本令は公布の日より之を施行す

昭和4年 樺太庁告示第41号

大正十二年三月樺太庁告示第三十八号中左の通改正し昭和四年四月一日より之を施行す

昭和四年三月二十三日
樺太庁長官 喜多孝治

大泊支庁の部 長浜郡中「長浜村 従来の区域に依る」を「長浜村 従来の区域より遠淵村を除きたる地域一円」に改め長浜村の次に左の一村を加ふ
遠淵村 野月西端より遠淵川口北方湖岸千五百間の地点を経て遠淵川及何日川分水嶺に沿ひ富内郡界に至る以南の地域一円

大泊支庁の部 留多加郡中「留多加町 留多加郡内より能登呂村を除きたる地域一円」を「留多加町 留多加郡内より能登呂村及三郷村を除きたる地域一円」に改め能登呂村の次に左の一村を加える
三郷村 利良北端より利良川流域を包括し同川上流分水嶺より北西分水嶺に沿ひ本斗郡界に至る以南の地域一円

昭和12年 樺太庁告示第143号

大正十一年十月樺太庁告示第二百二十三号(樺太庁支庁名称、位置及管轄区域)中左の通改正し昭和十二年七月一日より之を施行す

昭和十二年七月一日
樺太庁長官 今村武志

豊原支庁の項を左の如く改む
豊栄支庁|豊原市|豊原郡、栄浜郡

欄外に左の一項を加ふ
租税事務並に直接法律勅令に依り樺太庁支庁長の権限に属する事務に関しては豊原市は豊栄支庁の管轄区域とす

昭和12年 樺太庁告示第144号

大正四年七月樺太庁告示第七十三号郡の名称及区域中左の通改正す

昭和十二年七月一日
樺太庁長官 今村武志

「豊原支庁」を「豊栄支庁」に改む

豊原郡の区域を左の如く改む
南方豊原市界より東方鈴谷山脈に沿ひ北方内淵原野区画四十一線を界とし多古恵嶽を経て留多加山に至り西方中央山脈に沿ひ南行する分水嶺を辿り豊原市界に至る地域一円

富内郡の区域中「大泊郡及豊原郡界」を「大泊郡、豊原市及豊原郡の境界」に改む

留多加郡の区域中「豊原真岡両郡界」を「豊原市及真岡郡の境界」に改む

真岡郡の区域中「豊原郡界」を「豊原市及豊原郡の境界」に改む

昭和12年 樺太庁告示第145号

大正十二年三月樺太庁告示第三十八号町村の名称及区域中左の通改正す

昭和十二年七月一日
樺太庁長官 今村武志

「豊原支庁」を「豊栄支庁」に改む

豊原郡中豊原町の項及豊北村の区域中「豊原町、」を削る

公文書

樺太市制案理由書

樺太は領有以来既に三十年を閲し各方面に目覚しき躍進を遂げ町村自治亦向上し其の形態及実質に於て内地の都市に比し何等遜色なき都邑を生ずるに至れるを以て此の趨勢を助長し樺太開発の進展に寄与する為樺太市制を制定するの必要を認む是れ本件を提出する所以なり

出典:「樺太市制ヲ定ム・附肥料取締法中改正法律未決法律案」国立公文書館、本館-2A/-012-00/類02005100

市制と樺太市制及樺太市制施行令との制度上の差異

一 市制に包含するものにして樺太市制及樺太市制施行令に包含せざるもの
(1)性質上包含せざるもの
イ 市制に於ては市の区域に関し「市は従来の区域に依る」と規定しあるも樺太には従来其の全地域に亘り町村制のみ施行せられ全地域は何れかの町村の区域に属するを以て市制施行に際し従来の市の区域なるものなく且つ新に市制を原始的に適用し市を設置すべき地域なきを以て「市は従来の区域に依る」と言ふ規定を為し得ざるのみならず樺太に市を設置する為めには既存の町村を廃止し市を設置するの外なきも廃置分合に依り新に設置せらるる市の区域は廃置分合による市の設置処分の内容に於て定まる可きものなるを以て市の区域に関し規定せず(市制第一条)
ロ 樺太には府県なる公共団体存せず従って府県参事会、府県税に相当するなきを以て之等に関し規定せず(市制第三条乃至第五条、第九十三条、第九十七号、第百二十一条、第百十七条)
ハ 樺太に於ては旧来町村内の一部落にして財産を有し又は営造物を設けたるもの即ち所謂財産区なるものなきを以て財産区に関し規定せず(市制第百四十四条乃至百四十八)
(2) 包含せしむる必要なきもの
イ 勅令を以て指定せらるる東京、大阪、京都、の三市は市制第六条の規定に依り市の下に区を公共団体として認めらるるも樺太に於いては斯る大都市の出現は予想されざるを以て勅令を以て指定せらるる市の区に関し規定せず(市制第六条)
ロ 内地大都市に於ける公共事業中には築港、都市計画、水道、瓦斯、電気、電車等の如き其の規模大にして複雑なるものあり之が経営には一般事務と分離し専ら其の衝に当るべき特別の機関を設くるの必要ある場合存するを以て市制には市参与の制を規定し居るも樺太に於ては市参与を設けて経営すべき大都市としての事業は近き将来には想像されざるのみならず内地に於ける市参与の設置は現在東京、大阪、京都及横浜の四市に限られ他の中小都市には許容せられざる例にして樺太に於ては殆ど其の適用を生ぜざるべきを以て市参与に関し規定せず(市制第七十二条、第七十四条、第七十六条乃至第七十九条、第八十三条、第九十五条、第百四条、第百五条)
ハ 樺太に於ては市町村の共同処理を要すべき事務即ち土木、衛生、教育等の事務は現在想像されざるのみならず内地に於ても市町村組合の実例なきを以て町村組合を認めざる樺太町村制との関係もあり市町村組合を認めず従て市町村組合に関し規定せず(市制第百四十九条乃至第百五十六条)
ニ 樺太の市は其の面積に於て農村又は農村を包含せらるべきを以て内地の市より広大なるも人口密度は著しく低く選挙区を設くることに依り選挙事務を煩雑なら占め且部落的感情を助長し団体の団結力を薄弱ならしむる虞あるのみならず反て適当の人材を得難きを以て選挙区を設くる必要なし従て選挙区に関し規定せず(市制第十六条、第十九条乃至第二十一条、第二十二条、第二十二条の三乃至第二十三条の二、第二十五条、第三十条、第三十条の三乃至第三十三条)
二 市制に包含するものにして樺太市制及樺太市制施行令に於て変更したるもの
(1)権限に関するもの
イ 樺太には府県なきを以て府県知事及府県参事会の職権を樺太庁長官又は樺太庁支庁長の職権とす(市制第三条、第四条、第五条、第十条、第二十一条の三、第二十七条の四、第三十二条、第三十四条、第三十六条、第三十八条、第九十条、第九十条の二、第九十一条、第百七条、第百二十六条、第百二十九条、第百三十条、第百三十一条、第百五十七条、第百五十八条、第百六十三条、第百六十七条、第百七十条、第百七十二条、樺太市制第二条、第三条、樺太市制施行令第二条、第三条、第七条、第十八条、第三十六条、第四十三条、第四十五条、第四十七条、第四十九条、第九十五条、第九十六条、第九十七条、第百十条、第百二十七条、第百三十条、第百三十一条、第百三十二条、第百四十五条、第百四十六条、第百五十一条、第百五十三条、第百五十四条、第百五十七条、第百五十九条)
ロ 直接税の種類は樺太庁長官に於て之を定むる必要あるを以て市制に於ける内務、大蔵両大臣の権限(市制第百七十五条)を樺太庁長官の権限とす(樺太市制施行令第百六十一条)
ハ 市制中内務大臣の権限は樺太市制に於ては主務大臣の権限と為すを原則とするも樺太の特殊事情に鑑み内務大臣の権限の一部を樺太庁長官の権限とす(市制第七条、第十三条第五項、第百六十二条、樺太市制施行令第四条、第十条第四項、第百五十九条)
(2) 権限外のもの
イ 選挙人名簿調製に関しては定時名簿主義を理想とするも樺太に於ては住民の異動多きのみならず選挙人名簿を使用する機会少なきを以て当分随時名簿主義に依る(市制第二十一条樺太市制施行令第十六条、第十九条)
ロ 懲戒審査会の構成に付市制に於ては府県知事を会長とし内務大臣の命じたる府県高等官及府県名誉職参事会員を以て組織するも樺太には府県なる公共団体なく従て府県名誉職参事会員に該当する者なきを以て樺太市制に於ては懲戒審査会の組織に関し特別の規定を為す(市制第百七十条、樺太市制施行令第百五十七条)
ハ 市制は市の課す特別税の種類及制限に関し之を画一的に定むることなきも(市制第百十七条第四項、第百六十七条第六項)樺太に於ては自治団体の課す特別税の種類及制限は之を画一的に定むる必要あるに付樺太町村制施行令に於ても樺太庁長官之を定むと規定す
(樺太町村制施行令第百六条)市も町村と同様に取り扱ふ必要あるを以て市に於て課す特別税の種類及制限に付きても樺太庁長官に於て画一的に之を定むることとせり(樺太町村制施行令第百十六条第三項)
三 市制に包含せざるものにして樺太市制及樺太市制施行令に包含せるもの
(1)市の委任事務に付現在樺太庁令に依り町村に属せしめある教育警防に関する事務に限り市をしても処理せしむる要あるを以て町村制との統一上樺太市制施行令中に規定す(樺太市制施行令第一条)
現在樺太庁令を以て町村をして処理せしめある事務は
イ 樺太公立実業補習学校規程
ロ 樺太公立成年訓練所規程
ハ 公設消防組規則
(2) 市吏員の職務権限中従来樺太庁令を以て町村長に委任したる事務に限り市長にも之を処理せしむる要あるを以て樺太市制施行令中に規定す(樺太市制施行令附則第三項)
現在樺太庁令に依り町村長をして掌理せしめある事務は
イ 印鑑証明規則
ロ 土人戸口届出規則
ハ 牛馬籍規則
ニ 墓地火葬場及埋火葬取締規則

出典:「樺太市制ヲ定ム・附肥料取締法中改正法律未決法律案」国立公文書館、本館-2A/-012-00/類02005100